
ちょっとうらやましいぞ!?
奥田佳道
ああ、うらやましいなあ。いいなあ。次は参加しちゃおうかなあ。
社団法人日本アマチュアオーケストラ連盟(JAO)が毎年夏に開催しているフェスティバルの取材を続けるにつけ、筆者は羨望の念にかられる。羨望などというものではなく、ほとんど嫉妬に近い感情を抱く。
93年は名古屋で世界青少年オーケストラが奏でるレスピーギとサン=サーンスの壮麗な響きに「つい」酔いじれ、一昨年は札幌でラヴェルとプロコフィエフヘの果敢な挑戦に「思わず」うなり、昨年は福岡で堂々とした歩みのブラームスに「心からの」拍手を贈ってしまった。血も涙もないジャーナリストの仕事を忘れた訳ではないが、内心「うらやましいぞ」と叫ぶことが多かったのだ。
トヨタ自動車株式会社の愛すべき企業メセナ活動に支えられ、全国を巡演するJAOのフェスティバルは、ただのお祭りではない。ただ単に国際舞台で活躍中の指揮者を招き、全国の団体からアマチュアを募り、花火を打ち上げることをよしとはしない。
このフェスティバルには、演奏する側、聴く側にオーケストラの素晴らしさ、ことにハーモニーの魅力をあらためて味わって頂ければ、という純な想いが溢れている。そうした音楽の喜びを味わって頂くにはどんなお手伝いが可能か、という視点が織り込まれているのだ。
たとえば、ゲスト・コンサート・マスターの招聘、人選にも指揮者の趣向、JAOの姿勢が見え隠れする。一昨年の指揮者・矢崎彦太郎は長年の友人である元パリ管弦楽団のアラン・モグリアを誘った。昨年の高関健はベルリン・フィルハーモニーの安永徹とブラームスを創りあげた。そして今年は元イスラエル・フィルハーモニーのモーシェ・ムルヴィッツが貫禄と微笑みを添えでやってくる。
世界一の弦楽器セクションをもつイスラエル・フィル。昨年までこの名門オーケストラに在籍し、数々の巨匠と顔を合わせてきた名手ムルヴィッツは現在もイスラエル・ピアノ四重奏団で活躍。またアンサンブル、後進の指導にも力を注いでいる。彼の招聘を強く希望したのはイスラエル・フィル定期公演の常連指揮者で、今年11月にも3週間、通算6度目の客演を行う広上淳一である。
かねてから広上の才能を高く評価しているムルヴィッツは夏の休暇を一部返上、「ジュンイチが音楽好きなアマチュアを指揮する。何て素晴らしいことなんだ。」と二つ返事でゲスト・コンサート・マスターの話を承諾した。「マエストロ堤との共演は今回が初めてだが、バレエ音楽とアマチュア・オーケストラ育成の名手と伺っている。珍しい<火の鳥>全曲も楽しみ。」と意欲を語る。
ストラヴィンスキーの長編とラフマニノフの最高傑作を仲立ちにした舞台と客席の交歓が待ち遠しい。
ああ、うらやましいなあ。ちょっとうらやましいぞ。
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